おばさんの家は、思っていたよりずっとあたたかかった。
夕食のしたくのゆげが心地いい。ちかくで、波の音がする。
車のエンジン音が、だんだん大きく聞こえて来て、げんかんの戸があいた。
「ただいまぁ~」
赤茶けた顔のおじさんが入ってくると、潮のにおいがした。
「どうだった。雪まつり」
「人で、人で、つかれちゃった。雪像は、あったかくて、とけているしさ」
「それでも、みんなといっしょだら楽しいべさ」
「うん、そりゃそうだぁ。いい気ばらしさせてもらったぁ。父さん、これ、みやげ」
「およっ、こりゃなんだぁ」
おじさんが、ぼくを見つけて言った。
「なんだかわからんけど、小笠原諸島からだってさ。雪まつり会場で、みんなにくばってたんだ」
「ほおっ、そんな遠いところからか。よく来たもんだなぁ。どれ」
おじさんは、お酒のはいったコップをおくと、メガネをかけてぼくを見た。
「トゲのないサボテンみたいだわ。南の島で育ったんだね」
おばさんも、虫メガネで、ぼくについていたせつめい書を読んだ。そして、書いてあるとおりに、ぼくを画びょうでかべにとめた。
ぼくは、この家がよく見えるようになって、少しおちついた。
「ただいま」
セーラー服を着た女の子が、かえって来た。
色が白くてかわいいなぁ。
「ああ、おなかがすいた。かあさん、雪まつりすごかったっしょ。でっかい雪像があってさ。あれっ、これなに?」
「おまえは、なぁんも知らんねぇ。ハカラメって言って、小笠原の葉っぱだっしょ」
「なんもさ、かあさんだって何も知らないでもらって来たんだぁ」
おじさんはイカをかみながら、わらって言った。
ぼくは、からだだけでなく、心もあたたかくなったよ。
「父さん、やっぱり理恵は、沖縄に行くんだと。ともだちと沖縄ではたらくんだとさ」
「なに、このあいだ言ってたはなしか。あったかいとこがいいってか。せんぱいのおみやげ屋、手伝うっちゅうんだべ。おれは、はんたいだ」
「わたしだってはんたいだよ。だけど、兄ちゃんだって、はんたいしても東京へ行ってしまったっしょ」
おじさんは、朝ごはんも食べずに出かけてしまった。
おばさんと理恵ちゃんも、だまってごはんをたべている。
げんかんでくつをはきながら、理恵ちゃんがぼそっと言った。
「父さんがはんたいしても、わたしは沖縄に行くからね」
みんなが出かけたあと、おばさんがそばに来た。
「あんたも理恵とおんなじだぁ … 遠くに来ちゃってさ。父さん母さんは、あったかい南の島だべさ。あれっ、こりゃまた。ほう、じいちゃんの白い鼻毛みたいな根が出てる」
おばさんは、うれしそうにぼくをなぜた。がさつく手が、くすぐったい。
その夜、おじさんはよっぱらって帰って来た。
「父さん、南の島の葉っぱから根が出たさ。こんな北のとおくへ来てさぁ。これ、見て。なんだかわたし、なみだが出てきたよ。兄ちゃんも、東京でがんばってるんだろうなぁって。理恵にも、すきなようにさせてやらないかい」
おじさんは、だまったままで、一升ビンからお酒をついだ。
つぎの日のあさ、おじさんがメガネをかけてこっちを見た。
「かあさん、ほれ、新聞についてきた本にこいつがのってるぞ。マザーリーフって言うんだそうだ。葉っぱからちょくせつ 芽が出るからだとさ」
「へぇ、シャレた名前もついてるんだ。マザーリーフかい」
「理恵も、南の島で芽が出るかもしれんか ―― 。きょうは、ひさしぶりに船を動かしてやるかな」
そう言うと、おじさんは長ぐつをはいて出かけた。
おばさんは、おじさんが見ていた本を読んでいる。
「フーン、つりがね型で、みどり色からうっすらピンクのかわいい花が・・・ スズランのクリスマスツリーみたいだねぇ。日照時間が・・・ 」
本から目をはなして、じいっとぼくを見た。
「花がさいたら、写真をとって、小笠原の島に送ってあげようね」
まどの外に、海が見える。
くらい くらい海だよ 風がビョービョーいう こん色の海さ
家の中には 父さん母さんがいて 兄さんと妹もいたんだ
カモメがつらそうに鳴くけれど
この海は 父さん母さん島のある小笠原
東京と沖縄にだってつながっているんだ
父さんの船が あったかい家をめざして かえって来るよ
おわり
著作 水崎耀子 挿絵 高田弘子










08年08月17日 23:39:46
ハカラメは、学名をセイロンベンケイソウといいます。ハ)から直接芽が出るので小笠原諸島などでは”ハカラメ”と呼ぶそうです。をマザーリーフ。
葉(
別称
08年09月06日 13:58:20
絵本を見るような感じで読ませて頂きました。で清潔でそれでいて情愛が感じられて匂いまで漂って来ました。
簡潔
潮の